今村夏子さんの「星の子」を読んだ感想

梅雨入りの影響で湿気が増した6月。2017年上半期、芥川賞・直木賞の候補作が発表されましたね。なにか面白そうなものがあったら買うと決めて本屋さんへ行ってみると、美しい表紙の本を発見。

他の候補作と比べ群を抜いて目立っていたのが今村夏子さんの「星の子」。

表紙に惹かれたから、という理由もあるけれど、以前同著者の「あひる」という本を読んで心がザワついたことを良くも悪くも覚えており、またあの読後感を味わってみたいという理由で購入を決意。不安な気持ちになるかもしれないけれど好奇心が勝ちました。

 

さっそく読んでみたところ、物語が始まって2ページ目なのにも関わらず滲み出る不穏な空気。今村夏子さんが描く世界への扉を開けてしまったようで、不安になりながらもページを捲る手が止まりません。あっという間に読了してしまいました。時計を確認すると2時間弱の間読んでいたはずなのに、体感時間はもっと短いかと。

読み終えてからもしばらくの間、色々と考えてしまうほど影響力のある内容でした。

ここから先は物語の内容に触れつつあらすじや感想について綴っています。「星の子」は推理を楽しむミステリー小説ではないので何がネタバレになるかは人それぞれ。話の展開を知りたくない方や、ネタバレ・ダメ絶対!みたいな考えの人はここでさようなら。まっさらな状態で物語をお楽しみください。

少しでも本の内容に興味がある、という方だけこの先へどうぞ!

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「星の子」のあらすじ

帯にはこう書かれています。

大切な人が信じていることを、わたしは理解できるだろうか。一緒に信じることが、できるだろうか。

読み終えてから思うことは、「星の子」では先ほどの文章には続きがあって以下のように続くのではないか。

大切な人が信じていることを、わたしは理解できるだろうか。一緒に信じることが、できるだろうか。たとえその人が宗教に染まっていたとしても。

宗教信者の父と母

主人公のちひろは幼少期において体が弱かった。ここでは詳しい描写を避けますが、目を背けたくなる症状があり、ちひろの両親は家と病院を駆け回る生活を送っていたそう。

そんなとき、父親が会社で同僚に悩みを話したところオススメされたのがとある水

「金星のめぐみ」と名付けられたその水には様々な効能があり、特別な生命力を宿しているという。

ちひろに対して水を使ったところ、驚くことに症状が緩和。2か月使い続けることによって治るまでに至りました。

父と母も同じ水を飲むことで生活が改善。水に頼るようになり、水を売る側の人たちと親交を深め宗教へと浸かっていきます。

子ども目線で物語は進む

両親が変わってしまったことにより、ちひろの姉は高校1年生にして家を出た。

親戚からはあの水を辞めろという声も聞こえてくる。

しかし両親がそこから抜け出すことはなく、より深みにはまっていった。

ちひろはそんな環境に身を置きつつも、日常生活はいたって普通な印象。宗教に染まった両親と会話をするけどそれを外に持ち出すことはないし、学校での振る舞いも心得ている感じ。うまくやっている。

はたしてこの生活、いつまで続くのか。

「星の子」を読んだ️感想

(カバーを外しても綺麗)

宗教を信じる親の気持ち、なんとなく分かる気がする

子どもを助けてくれた水。自分の子どもだったら・・・と考えると分からなくもないかなぁ。

実際のところ僕に子どもはいませんが、かわいいかわいい甥姪がいますからね。もしあの子達がと考えると……なんとなく共感できる。

でもまあ正直、元気になったらもう要らないとは思いますが。“子どもを救ってくれた水”というブランドのような魅力が備わったことで依存してしまったのだろうか。

帯の文章は読者への問いかけ?

改めて帯の一文を見てみよう。

大切な人が信じていることを、わたしは理解できるだろうか。一緒に信じることが、できるだろうか。

作中では両親の宗教に関して言っているのかと思ったけど、これって他のことにも当てはまりますよね。

  • 恋人が信じていること
  • 子どもが信じていること
  • 有名人が信じていること

そう考えると、帯の文章は読者への問いかけだったのかな、なんて思ったり。はたして僕にとって大切な人が信じていることを理解できるのだろうか。一緒になって信じることができるのか。

不安に感じることもあるけれど、そんな時は作中に出てくるあの人物のセリフを思い出してみようと思う。

ぼくの好きな人が信じているものが一体なんなのか知りたくて、今日ここにきました。

……ぼくは、ぼくの好きな人が信じるものを、一緒に信じたいです。……それがどんなものなのかまだ全然わからないけど、ここにくればわかるっていうんなら、おれ来年もここにきます。

すごいなって思う。まずは向き合ってみることが大事なのかな。

おわりに

今村夏子さんの「星の子」は読み終えた後に様々な感情が駆け巡る小説。余韻がたまらなく好きで、総じて面白かった。

単行本にして200ページ弱という丁度いいボリューム感であり、会話形式のところが多く読みやすいのでもし気になった方は読んでみてください! 発売直後の単行本にしては珍しく?Kindleでも読めます。

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そういえば表紙の素敵なイラスト、誰が描いたものだったんだろう。もし知ってるという方いましたらツイッターでこっそり教えて頂けると嬉しいです。情報お待ちしております。