今村夏子さんの「あひる」という本。
2016年11月18日に発売されました。
芥川賞の候補にもなり気になって書店巡りをしてみるも、一向に見当たらない。Amazonでも「一時的に在庫切れ。入荷時期は未定です」の状態が続いていたのですが、先日訪れた本屋にて発見。念願かなってようやく手に入れることができました!
3つの短編を収録
この本には表題作を含む次の3つの短編が収録されています。
- あひる
- おばあちゃんの家
- 森の兄妹
合計150ページにも及ばず、単行本としては薄い。
西加奈子さんの「i アイ」と比較してみるとその差は歴然。「あひる」だけなら30分も経たないうちに読み終わってしまうほどの短さでした。
あひるのあらすじ
父親の同僚が家の都合であひるを飼えなくなった。幸いなことに、主人公家族の家にはあひるを飼育できる環境が整っている。だから引き取ることとなった。名前はのりたまといいう。前に飼っていた人が名付けたものを、そのまま使っている。
あひるを飼うようになってから、近所の子どもが家に遊びに来るようになった。この物語では、あひるを飼う家族と家に集まってくる子どもの日常を、淡々と描いている。
あひるの感想
家族と子どもの日常を、ただ淡々と描いている。……とはいったものの、僕の胸の中は穏やかじゃない。
読みやすい文章で表面的には平和な世界なんだけど、ざわつくところが何箇所もあった。
例えば、のりたま(あひる)の体調が悪くなったときのこと。病院へ連れていき、しばらく帰ってこない日が続いた。すると突然、黒のワゴン車が家を訪れる。のりたまが帰ってきたのだ。しかし車から出てきたのりたまの羽根や瞳、クチバシの特徴が以前のものと異なる。本物ののりたまではない、別のあひるだった。
ざわついたのは、その事実に意義を唱える人がいなかったということ。
「なんでみんな黙って受け入れてるの?」
と心の中でツッコミを入れるが、何事もなかったかのように話は進んだ。そしてこれは繰り返される。
↑ラストシーンの挿絵
表紙と同じあひるのように見えるが、影が濃い印象。
帯に書かれていた「何気ない日常のふわりとした安堵感にふとさしこむ影」という表現に、妙に納得した。淡々と話が進む、不気味な小説だった。
「おばあちゃんの家」と「森の兄妹」の感想
書き下ろしの2作。
読み終えた感想は「あひる」とは違う感じがするものの、うまく言葉にできない…。けれどどちらもスッキリとした読後感であることは確かです。
2つの物語は繋がっている?
作中に登場するおばあちゃんは同一人物なのかな?
孔雀、独り言、誕生日会、セーラー服姿の女の子というところに共通点を感じました。
孔雀とはなんだったのか
桜の木のそばにいたという孔雀。実際はキジの雄だということが判明しましたが、いったいその存在は何だったのだろう。
「おばあちゃんの家」と「森の兄妹」が繋がっていることを確定付けるための要素なのか。それともなにかの比喩なのか。結局僕自身で答えは見つけられなかったけど、なにか深い意味があるんじゃないのかな。
おわりに
初めて今村夏子さんの本を読んだのですが、スラスラと読み進めることができました。文章が短いから読みやすいという理由だけではないと感じます。「あひる」も「おばあちゃんの家」も「森の兄妹」も面白かったので、別の本も読んでみたいと思いました。