星野源という人間のことを詳しく知らない。
僕がその名前を目にするようになったのは2016年10月のこと。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、通称「逃げ恥」に出演していることがきっかけだった。
当時話題になっていた逃げ恥だが、実のところ見てはいない。そのとき、ドラマを見るという習慣がなかったからだ。せいぜい土曜日に放送されていた王様のブランチ・視聴率ランキングで目にしていた程度。逃げ恥の世界観に入り込んで物語を堪能していたわけではない。
彼は俳優として活動しているが、音楽活動もしている。逃げ恥の主題歌「恋」を手がけており、2016年には2度目の紅白歌合戦出場を果たした。
大晦日、NHKホールのステージで恋を歌う姿は今でも印象に残っている。その影響か、僕の中で星野源という人間は、俳優というより歌手としての印象が強い。
最近では更に活動を広げ、映画「夜は短し歩けよ乙女」の主演声優をつとめた。
俳優であり歌手であり声優もこなす多才な人間、星野源。
その人物像は明るくて華々しいイメージ。
だからこそ、本人が筆を執ったエッセイ集「いのちの車窓から」を読んで、そのイメージ像が崩れ去ることになった。
冒頭で、開頭手術をした過去について語っていたからだ。
いのちの車窓から 著:星野源
開頭手術についてイメージが湧かない人のために、その描写を以下に引用した。
切開し、額の皮膚を下方に向かってべりべりと美肌パックをはがすようにオープンし、頭蓋骨を露わにした後、わかさぎ釣りの氷上の穴の如く額の骨を丸く削ってポコッと取り、その中にメスなどを入れ、脳の動脈にクリップを付ける手術をした。
逃げ恥、恋、紅白の印象しかなかっただけに衝撃的すぎる。優しくて柔らかい内容のエッセイを期待して本を開いたところ、いきなり正面からグーパンチをくらったような感じ。不意を突かれた。
同時に俄然興味が出てきた。星野源という人間のことを、もっと知りたいと思った。
「いのちの車窓から」では、過去の出来事やそのときの心情をリアルに描いている。
- ドラマ撮影の裏側
- 紅白歌合戦が決まるまで
- ハマっているゲームの話
- 曲の制作秘話
- ライブ直後のこと
- 新垣結衣について
ほかにも「大泉洋」という名のエッセイがあり、仲の良さを顕にしていた。読んでいて、
「この人たちイチャイチャしすぎw カップルかよwww」
とツッコミを入れざるを得ない。頭開手術の話では顔から表情が消えていたが、気が付けばニヤニヤしながら読んでいた自分がいる。
ひとつひとつのエッセイは5ページくらいの文章量と短め。かといって内容は薄くなく、むしろ凝縮されて濃くなっている。読み進めていけば、きっとお気に入りのエッセイや文章、言葉が見つかることだろう。
個人的にはホテルの部屋で作曲活動している話が好き。タイトルは「ROOM」。エモいなぁ(情緒的だなぁ)と思いながら読んでいたので、お気に入りの文章を載せておく。
ただ頭の中はワンダーである。世界があり、空気があり、匂いもある。その映像、景色、物語を音に変換するように歌を作る。
「いのちの車窓から」に収録されているエッセイは、雑誌「ダ・ヴィンチ」で連載していたものだが、単行本用に加筆・修正されている。なので一度読んだことのある人でも楽しめるようになっているのではないかと。
さらには書き下ろしを2つ収録。「文章」というタイトルのエッセイでは、なぜ星野源は文章を書くのか、という問いに答えている。これがとてもいい話だったので、本が好きな人や文章を書いている人が読めば、なにかしら思うことがあるはずだ。
「いのちの車窓から」を読み終えた感想
繰り返し言うが、星野源という人間のことを詳しく知らない。そんな僕でも最後まで飽きることなく、むしろ前のめりになって楽しく読めた。
過去の出来事や想いに触れて、少しだけではあるが読む前よりも身近な存在として感じられるようになった気がする。
そして、こんなカッコイイ文章を書いてみたい、とも思った。実際にこの記事は普段のブログの雰囲気とは異なる感じで書いている。人の影響を受けやすいのは自覚しているが、ここまでくるのも珍しい。
「いのちの車窓から」をきっかけに、文章を書く人としてファンになった。
俳優であり歌手であり声優もこなす多才な人物像に、作家という肩書きが加わったのはいうまでもない。
「いのちの車窓から」のほかにも本を出版しているようなので、近々読んでみようと思う。いま一番気になっているのが「蘇る変態」
タイトルからすでに惚れそうだ。