西加奈子さんの「i(アイ)」を読んだ感想を語る

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「この世界にアイは存在しません。」

この一文から始まる物語の名は「i(アイ)

2016年11月30日に発売された西加奈子さんの新刊。書き下ろしの長編小説です。

西加奈子さんの新刊が発売されると知ったとき、以前読んだ「まく子」という小説を思い出しました。物語を読み終わったあとにしばらく余韻が残る感じが懐かしく「また体験したいな」と、ふと思ったんです。

それからというものの「i(アイ)」のことが頭から離れない。家には積読本がたくさんあるのにも関わらず、新刊が気になって本屋へと向かった。発売日の翌日に行ってみると、平積みコーナーに1冊だけポツリと残っていた。この状況に運命的なものを勝手に感じてしまったので早速購入する。

 

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こちらは本のカバーを外した姿。全体は青く、中央には「i」 西加奈子さん本人による表紙イラストも素敵だけど、このシンプルさがたまらなく好き。

それでは、本のあらすじや感想について触れていきたいと思います。

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「i(アイ)」のあらすじ

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先ほど冒頭でも紹介した「この世界にアイは存在しません。」という一文。高校の数学教師が授業で放った一言です。

この言葉に反応した一人の生徒こそが、この物語の主人公であるワイルド曽田アイ。シリアで生まれ、血の繋がっていない両親(アメリカ人の父と、日本人の母)のもとで育てられました。

数学教師は虚数のことについて言っているだけで、ワイルド曽田アイとの関連性は全くもってない。しかし、本人にとってこの一言は衝撃であり、これからの人生で長く胸に残り続けることとなる。

この物語では、ワイルド曽田アイの過去から現在。そして未来の話が描かれています。

※ここから多少のネタバレを含むのでお気をつけください。しかし、個人的にはネタバレを知ったからといって面白さが半減するといった類の本ではないと思っています。むしろ少しのネタバレによって興味を持ってもらえたら嬉しいです。

「i(アイ)」の感想

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約300ページある内容を一気読み。
それはもう夢中になって読んだ。

このお話はミステリーやサスペンスではありません。なので「トリックは何だろう?」と考えることもなければ、「犯人が分かれば事件解決」というような終わり方になることもない。僕の頭の中ではどうやって話を終わらせるのか、この話の行き着くところはなんなのか、そんなことばかりを考え読んでいました。

今思えばページを捲るたびに次の展開が気になって、ずっと興奮状態だったんだと思う。そして事あるごとに挿入されている「この世界にアイは存在しません。」という一文。何度も読んでいるうちに、心にグサッと刺さるものがあり、アイと同じく僕の中にも自然と残っていた。

それはなぜだろう?

読み進めていくうち、すっかりアイに感情移入してしまったからなのか。境遇も性別も異なるけど、なぜか他人事とは思えない。それはきっと、僕とアイの歳が近いからなのではないか。

アイは1988年生まれ。僕は1990年生まれ。物語の中では実際に日本や世界で起きた事件・事故を頻繁に取り上げている。同じ時代を生きている身として、胸を締め付けられるところもあったから。

また、名前の影響が大きいのではないか

アイとい名前の意味

  • 虚数
  • imaginary number
  • 想像上の数

iには数多の意味があるけれど、アイの両親は次の2つの意味を込めました。

  • アイ = 愛
  • アイ = I(わたし)

自分をしっかり持った愛のある子に育ってほしいと願い名付けられた。自分自身を現す「I」。この意味があるから僕にもなにか思うところがあったのかな…。なんとなくそう思いました。

ミナとユウについて

アイ以外の重要な登場人物である次の2人。

権田 美菜(ごんだ みな)
佐伯 裕(さえき ゆう)

美菜はアイの親友。裕はアイの結婚相手である。

それぞれ、作中ではカタカナで表記されていることが多い。母親の綾子や初恋相手の内海義也は一切ないのにだ。カタカナ表記に意味があるのだろうと考えてしまうのは考えすぎかな…。

単純に考えれば、ユウ=You
「わたし」と「あなた」が揃ったことになる。

ではミナの意味とはなんなのか。
英単語ではなく、漢字の「」という意味が込められているのかなと思った。

そんなことを考えながらラストシーンを読むと、また違った感動が押し寄せてくる気がした。少なくとも僕はそう感じた。

帯コメントは中村文則と又吉直樹

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読み終わった後も、ずっと感動に浸っていました。なんてすごいんだろう。この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない。

中村文則さんによる帯コメントを読んだとき、「ちょっと言い過ぎなんじゃないの?」と思ってた。今でもその思いは変わらないけど、「読み終わった後も、ずっと感動に浸かっていました」という部分には激しく共感する。数日間は他の本に手を出さなくてもいいかな、と思うくらい満たされた。

一方、又吉先生の帯コメントがこちら。

残酷な事実に対抗する力を、この優しくて強靭な物語が与えてくれました。

これもなんか分かる気がする。
妊娠や流産、アイとミナが言い争うシーンは残酷だった。でも、ちゃんと救いのあるラストが待っていたから心救われたんだよね。

おわりに

年末にすごい小説が出てきた。
先日、ブログで2016年に読んで面白かった本を振り返ろうと思ったけど、まだ早かったようです。この本を読まずして決められない!

西加奈子さんのファンもそうでない方も、手に取って読んでみてはいかがでしょうか。読み終えた際には、きっと心に残る何かがあると思います。