新潮文庫nexから発売された、竹宮ゆゆこさんの新刊「砕け散るところを見せてあげる」。
最近読んだ本の中でも、ずば抜けて面白かった。タイトル、表紙、キャラクター、ストーリー構成のどれもが素晴らしかったので紹介します。前半は表紙とあらすじについて。後半は感想や考察を書きました。
感想や考察を語る上でネタバレは避けられないので、ご注意ください。それでは「砕け散るところを見せてあげる」を紹介します!
表紙イラストは、意味ありげな女性のイラスト
印象的な表紙。
女性を正面から描いたイラスト。手がけたのは浅野いにおさん。
この女性、なにか深い事情を抱えているかのような、意味ありげな表情が特徴的。目を見たとき、すぐには視線を外すことができなかった。
このイラストに加えて「砕け散るところを見せてあげる」というタイトルである。どんな意味が込められているのか。表紙の女性が発言したセリフなのか。もしそうならどんなストーリーなのか。
色々なことが頭を駆け巡り、読む前から気になって仕方がなかった。
あらすじ
死んだのは、二人。その死は、何を残すのか。
大学受験を間近に控えた濱田清澄は、ある日、全校集会で一年生の女子生徒がいじめに遭っているのを目撃する。
割って入る清澄。だが、彼を待っていたのは、助けたはずの後輩、蔵本玻璃からの「あああああああ!」という絶叫だった。その拒絶の意味は何か。
“死んだ二人”とは、誰か。やがて玻璃の素顔とともに、清澄は事件の本質を知る……。
引用:amazonの内容紹介
導入は、いじめられっ子の後輩を助けて恋が芽生える話。ただ甘酸っぱい恋愛小説というわけではなく、殺人・死人というワードもある複雑なストーリー。
ここから先の感想や考察では「砕け散るところを見せてあげる」のネタバレ満載なのでお気を付けください。
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ストーリー構成にやられた
お見事!!
心の中で拍手した。巧妙な構成にやられた〜! 「え! え!?」と動揺して終盤と序盤を繰り返し読んでしまった…。なぜかというと、気づかないうちに語り手が変わっていたから。
ページごとに誰が語り手になっていたか振り返ってみましょう。
ページ | 語り手 |
5 – 20 | 清澄と玻璃の子ども |
21 – 300 | 清澄 |
301 – 309 | 玻璃 |
310 – 311 | 清澄と玻璃の子ども |
僕は終盤まで、ずーっと清澄の話だと思っていました。だけど、途中「あれ?」と思うところもあったんですよね。
冒頭では父親は死んだことになっていたけど、清澄の父親は離婚した影響で別々に暮らしていたことが発覚した…。でもまさかその父親が別の人を指しているとは思いもしませんでした。
本当に感動したのは冒頭の数ページ
文庫本の帯にはこう書かれていました。
最後の一文、その意味を理解したとき、あなたは、絶対、涙する。
実は読み始める前に最後の一文を読みました。どんなことが書かれていて、どんなふうに収束するのかが気になって。
答え合わせをするかのように読み進めたけど、そこまで感動しなかったし涙は流れなかった。
・・・そう、再読するまでは。
僕が本当に感動したのは、清澄と玻璃の子どもの視点で語られた7ページから20ページの間。読み込むとエピローグの直前の話ということが分かる。特に気になったのがこちら。
母さんにとっては、父さんが触れたカーテンさえも宝物だった。父さんが読んだ本も。父さんが見ていた壁の傷も。父さんが好きだったコーヒーも豆も。父さんが渡った歩道橋も。父さんがよく食べた袋麺も。父さんを照らした太陽も、月も、目には見えなくとも確かに在った遠い星々も。
父さんの意識が通ったすべてのものを、母さんは心から大切にしていた。
この描写どこかで見たことある…。見直してみると、清澄(父さん)が死にゆく描写と重なっていた。肉体は死んでいても、玻璃(母さん)は清澄の存在を感じているし、息子も同じように感じている。
最後の一文の意味を、理解したような気がした。
ネタばれ込みの感想だけど、最後の一文についてはここでは書かないので、本書で確かめてみてほしい。
UFOについて
未読の方にとっては「なんでUFO!?」と思われるかもしれないが、「砕け散るところを見せてあげる」では重要なキーワード。
UFOとは例えで「玻璃を苦しめ、傷つけるもの」を指す。SFやオカルト的な話ではない。物語において、UFOは2つありました。
1つ目のUFOは、玻璃の父親。
2つ目のUFOは・・・なんだったのだろうか? 1つ目のUFOを撃ち落とした夜に生まれ、玻璃の命を燃料に浮いているようだけど、いまいちハッキリとした答えが分からなかった。ヒントとなる描写があったので以下に書いてみる。
俺の孤独は、それからずっと宙に浮いたままになっていた。
玻璃は今もそこにいるんだろう。俺たちの空に、一人で寂しく浮かんでいるんだろう。
孤独? 玻璃?
UFOの正体は「玻璃を助けられず、ヒーローになれなかったことを後悔している清澄」のことで過去の呪縛みたいなものかなと思ったんだけど、違うのかなー。うーん……謎だ…。いまいちスッキリしない…。
「砕け散るところを見せてあげる」の意味
本書のタイトルである「砕け散るところを見せてあげる」。果たしてどんな意味が込められているのか。表紙のインパクトが強くて玻璃のことを指しているのかと思い込んでいたけれど、思い当たる描写は一つだけ。
それは清澄の死。
二つ目のUFOが墜落するとき、清澄の身体から銀河が流れ出し、あらゆるものに降り注いでいった。まさしく、清澄の命が砕け散ったのかなと。
おわりに
あー面白かった!!
読み終わってから内容について深く考えた小説は久しぶりでした!
この記事でネタバレを読んでしまったけど未読の人がいたら、改めて「砕け散るところを見せてあげる」をおすすめしたい。きっと素晴らしい体験ができるだろうから。
著者の竹宮ゆゆこさんは新潮文庫nexで「知らない映画のサントラを聴く」という本を出しているので、そちらも気になります。今度読んでみようかな。
それでは、また!