又吉直樹さんの新作小説「劇場」。
デビュー作である「火花」に続き2作目となる今作。そのジャンルは恋愛小説とのこと。
「お笑い芸人である又吉さんが描く恋愛小説ってどんな物語になるんだろう?」
もはやお笑い芸人という肩書きが合っているのかも怪しいけど、アメトーーク! の「やっぱり結婚したい芸人」に出演していたこともあって又吉さんが描く恋愛話に興味津々。
単行本の発売日は5月11日ですが、それまで待てなかったので「劇場」が収録されている小説誌「新潮」を購入しました。
2017年5月11日追記:単行本買いました\(^o^)/
※前半はストーリー内容に触れず登場人物の名前すら出さずに紹介していますが、後半は思う存分ネタバレ要素を扱っています
ネタバレなしの感想
序盤は「新しい物語が始まる…!」というワクワク感で高まる気持ち最高潮。ところが読み進めていくと、なんだか退屈だな、と思える展開に。静かな文章は嫌いじゃないんですが、もっと刺激が欲しかったというか…。
でも読み始めてしまったし途中で止めるのも気が引けたので、襲ってくる眠気と戦いつつそのままページを捲ることに。
約100ページある物語の80ページを越えたあたりでしょうか。4分の3が終わり終盤に突入したところである事が起こります。ネタバレになるので今は詳しく書きませんが、激しい感情のぶつかり合いがあったんです。数ページにわたって言葉の弾丸が飛び交いました。
そのシーンを読んだとき、いままで劣勢だった眠気との戦いは大逆転。勝利を収め、僕の意識は覚醒した。
個人的に思っていることですが、小説が面白くなってくるのは40~50ページを過ぎた頃が多いイメージ。そこで面白さのスイッチが入ると、夢中になって最後まで一気に読めてしまうんですよね。
今回読んだ「劇場」は、その面白さが入るスイッチが極端に遅かった。でも確実に存在したのも事実。終盤は時間を忘れて読みふけり、あっという間に読了。
ラストの切ないけど清々しい感情も残る展開は、胸にグッとくるものがありました。この作品、好きです。
僕は過去に又吉さんのデビュー作「火花」を読んでいますが、世間が絶賛しているほど面白いとは思いませんでした。なのでブログにも感想を書いていません。
主人公が芸人であったり、あるキャラクターの突飛な行動に理解が追いつかず、共感できるところが少なかったからなんだと思います。
ところが今回の題材は恋愛。前作よりも身近に感じられたからこそ面白いと思えたのかもしれません。(実際に読んでみると「これって恋愛小説なのか…?」と思わないこともなかったけど)
「火花が面白くなかったからいいや」と遠慮している人もいると思いますが、読む前から諦めてしまうのはもったいないかもしれませんよ。
………
さて、ここまで恋愛小説のストーリーに触れず、登場人物の名前も出さずに感想を書いてきましたが、ここからはネタバレ要素を存分に扱っていこうと思います。
あらすじ紹介や表紙デザインについてはそれほどではありませんが、後半の感想部分では遠慮しないのでご注意ください。
本のデザイン
本の表紙を手掛けたのは現代芸術家である大竹伸朗さん。
帯には「かけがえのない大切な誰かを想う、切なくも胸にせまる恋愛小説」と書かれていますが、本当にその通りだと思いました。
もう片方には本文からの台詞を抜粋。
こちらは表紙カバーを外した姿。真っ白です。
(なぜこのようなデザインなのか考えてしまうけど、答えは一向に見つからない。笑)
「劇場」のあらすじ
Amazonの商品説明によると、
一番 会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことが、なんでできへんかったんやろな。
演劇を通して世界に立ち向かう永田と、その恋人の沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会った――。
『火花』より先に書き始めていた又吉直樹の作家としての原点にして、書かずにはいられなかった、たったひとつの不器用な恋。
夢と現実のはざまでもがきながら、
かけがえのない大切な誰かを想う、
切なくも胸にせまる恋愛小説。
もう少し詳しく紹介してみますね!
…
舞台は東京。主な登場人物は2人います。
売れない脚本家の永田。
女優志望の大学生、沙希。
2人が出会ったのは、とある画廊にて。永田は沙希を見た途端運命的なものを感じ、執拗なまでに路上ナンパを決行する。本来知らない人に話しかけるような性格でもないので、当然スムーズに事が運ぶこともなく。
ところがどういうわけかその後2人はカフェに入り、沙希のおごりでお茶をすることになる。(こうなるまでの経緯に笑っちゃったので、読んだ人だけの秘密にしておきましょうか。)
その出会いがきっかけになり、2人の進む道は交わることに。
そこからは彼と彼女の成長や変化、同棲生活、所属する劇団についての話をメインに展開していきます。
ネタバレありの感想
主人公の永田 = 又吉直樹?
火花の時もそうなんですけど、主人公が又吉さんでビジュアル化されて、その声でセリフが脳内再生されるんですよね。
主人公は芸人ではなく脚本家なのでそれほど結びつきはありませんが、関西弁を話すのでどうしても連想してしまう…。
サッカーゲームをするところで、プレイヤーの名前に「漱石」「太宰」といった文豪の名前をつけているのもそう。もはや本人では?笑
…
そういえば、劇場のことについて調べていると公式サイトに気になるところを発見。又吉さんは作品についてこうコメントしていました。
演劇や恋愛や人間関係の物語です。大雑把な説明になってしまうのですが、自分にとって書かずにはいられない重要な主題でした。
書きはじめてから完成まで二年以上かかりました。変な話ですが、この小説自体が書いてる僕を鼓舞してくれた瞬間が何度かあって、「ありがとう」とか「ごめんな」とか小声で言いながら書いていました。
なんだか意味深…。これってやっぱり少なからず体験談が交じっているのかな、なんて考えてしまいますね。商品説明のところにも「又吉直樹の作家としての原点」と書かれてあったし。
それだったら永田から又吉さんを連想してしまうのも頷ける。違ったら違ったで、読み手にそう思わせるってすごいけど!
終盤まで退屈だったけど…
ネタバレなしの感想でも触れましたが、2人の出会いで盛り上がったけど、それ以降はちょっと退屈気味。
劇団員と喧嘩別れするところは見ものでしたが、それほど僕の感情は動かなかったし、ありそうな展開だということでそこまで響かなかった。
読んだ人の中には朝井リョウさんの「何者」が頭をよぎった人もいるんじゃないかな。全然違う話だけど、劇団のすれ違いみたいなことが描かれていた気がするので、新鮮味が薄れたのかもしれません。
ただまぁ、終盤までの静けさがあったからこそ、永田と青山の激しく感情を露わにするところが際立ったのかも。
変わっていく沙希
明るい性格だった沙希が衰退していくのは読んでて辛かった。
永田と出会ったころは美容師に声をかけられても軽くあしらえていたのに、数年後に同じようなことが起きたときは泣いてしまう事態に発展。それぞれ対比するように描かれていた気がしたので、改めて変わってしまったんだ…と思い知らされた。
だけど永田に対する根本的な想いは変わっていない感じがして、ちょっと救われたところもある。
おわりに
この記事は新潮に掲載された文章を読んだあと直ぐに書きました。勢いにのせて書いたので、まだまだ語りたりないところが僕の中に眠っているかもしれません。ここまで書いてきましたが、若干消化不足なんですよね。笑
劇場の単行本が発売したので、これからたくさんの人に読まれることでしょう。他の人の感想を見つつ、なにか思うところがあれば追記していきたいと思います。