中田永一「私は存在が空気」感想:超能力×恋=切なくも笑える短編集!

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祥伝社から出版された小説、私は存在が空気を読みました。

 

著者は中田永一

中田永一といえば、「百瀬、こっち向いて。」や「くちびるに歌を」など、映画化されている作品を手がけています。乙一の別名義としても有名ですね。

 

帯の紹介には、

超能力者 × 恋物語

 

各作品の紹介とともに感想を書きたいと思います。多少のネタバレを含むのでご注意ください。

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私は存在が空気 6つの短編 感想

少年ジャンパー

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超能力:瞬間移動

  • 両足が地面から離れることが条件
  • 移動先は一度でも行ったことがある場所に限る

引きこもりで不登校の高校生が主人公。名前は大塚。性別は男。容姿に強いコンプレックスを持つ。

駅のホームで転落してしまった瀬名ヒトエを瞬間移動で助けるところから恋物語は始まる。

瀬名先輩は容姿のことを不快に思わず話しかけてくれる。しかも綺麗。だけど彼氏持ち

瞬間移動が便利で頻繁に会う関係が続く中、容姿に対する葛藤と、好きって気持ちが描かれていて、なんともいえない切なさを感じた作品。

引きこもりの高校生が外の世界へ出ていく様は、少年漫画のノリに近いところがあった。少年ジャンパーというタイトルも狙ってるとしか思えない(笑)

余談ですが、大塚がどんな顔をしているか。醜い宇宙人、酔っぱらいの吐瀉物、腐って蛆(うじ)のわいた林檎みたいな顔 などと表現され、酷いいわれよう。ドラマ、映画、アニメなどで映像化したらどんなビジュアルになるのか。誰がどんなふうに演じるのかも気になるところですね。

私は存在が空気

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超能力:存在感を消せる

  • 存在感を消せば、たとえ目の前にいても気づかれない
  • 逆に存在感を強く出すこともできる
  • 消したまま、動くこともできる

本書の表題作である「私は存在が空気」。

超能力を持つのは語り手である鈴木伊織。性別は女性。訳アリな家庭環境から、存在感を消さなければいけないと判断し、今に至ったとのこと。

存在感を消すことについてイメージし辛いかもしれませんが、透明人間になれるようなものです。

うらやましいですね(ボソッ

 

気になっている先輩(男)の家に侵入し、見つかるかもしれないというドキドキ感がたまりませんでした。話の終わり方もよく、良い読後感です。

恋する交差点

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超能力:手をつないで交差点を歩くと手が離れる

べつに特殊能力ではないのでは?と思うかもしれません。

特殊なのは、手を握っている感覚があるのに、気づいたら別の人の手を握っているところ。作中ではトンネル効果とよばれていた。

その能力を持っている女性が付き合っている男性と手を繋ぎ、渋谷のスクランブル交差点を渡りきったら結婚しようぜ!みたいな感じの話。

わずか6ページで終わる。

スモールライト・アドベンチャー

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特殊能力:体が小さくなる

この特殊能力は道具によるもの。道具の名はスモールライト

みなさんご存知のあの作品。「ドラえもん」の秘密道具。

語り手は小学生の「オレ」。小さくなった「オレ」は、クラスで気になる女の子のスカートを覗くため、冒険へと繰り出す・・・!

小さい時の描写が素敵だった。

  • くるりと巻かれた生ハムのなかに身をひそめてやりすごすこともあった。
  • クリームチーズがやわらかくて、裸足の足が抜けなくなった。
  • パスタの中に飛び込む。熱い。

 

ファイアスターター湯川さん

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特殊能力:熱をおもい通りの場所に発生させられる

語り手は木造アパートの管理人さん

特殊能力の持ち主は、そのアパートにやってきたお嬢様系女子、湯川さん。

能力を使い、お湯を沸かしたり、火を発生させたりします。まさに発火女子

家事に怯えながらもアパートで生活する日常を描く、ほのぼの話。

 

かと思いきや

 

狙撃手とのバトル展開や、家族に関する重大な事実が後から判明するなど、けっこう重めの内容でした。

サイキック人生

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特殊能力:透明な腕が2本ある

  • 腕は遠くまで伸び、物体を動かすことができる
  • 腕は物体をすり抜ける
  • 透明の腕で感じたことは生身の腕に、はねかえってくる。(ものを触ったら、生身の腕に感覚が残る)

母方の家系全員が使える。

この能力には掟があり、他人に秘密が漏れてしまった場合は口封じのために殺さなくてはならない。例外もあり、配偶者と配偶者候補の場合は大丈夫とのこと。

特殊能力と恋愛感情と掟の設定が話を面白くしていた。好きな人ができて秘密をさらけ出したいけど、結婚相手になるかが分からないから話せない…。そう考えるともどかしいですね。

おわりに

とにかく超能力の描写が面白い! ごく普通の日常で使われているので、想像しやすく妄想が捗ります。

クスッと笑えるだけでなく、恋物語の方もよかった。超能力者が恋したら、こんな葛藤が生まれるんだなーと感心。逆に、超能力者に恋した時の気持ちもあって切ない。

1つの話が短く、とても読みやすかったです。ふだん小説を読まない人に、自信を持ってオススメできる1冊だと思いました。

特に、少年漫画が好きな人には「少年ジャンパー」と「スモールライト・アドベンチャー」を強くおすすめします!

それでは、また。