文藝春秋から出版された「ままならないから私とあなた」。
著者は 朝井リョウ さん。
この本には以下の2つの作品が収録されています。
- レンタル世界
- ままならないから私とあなた
どちらも面白かったけど、友達に薦めたいかといわれると躊躇してしまうような内容だった。読み終えた後は虚しい気持ちになり、モヤモヤが残る感じの内容。
「レンタル世界」を中心に感想を書いたので、紹介します。
レンタル世界 感想
あらすじ
雄太(ゆうた)は先輩の結婚式に参加し、気になる女性を見つけていた。
その人の名前は倉持曜子(くらもちようこ)。
連絡先を交換することはなく、その後の交流もなかったが、後日彼女と参加していた脱出ゲームで偶然同じ顔の人と出会う。
倉持曜子と断言せず、”同じ顔”と表現したのは印象が全く違ったから。結婚式では落ち着いている印象だったけど、脱出ゲームの時はリーダーシップを執るほど活発的。
どうしても気になった雄太は脱出ゲームを終えた後に彼女と別れ、意を決して声をかけた。
話を聞いてみると、結婚式への参加は新婦側のレンタル友達として参加したとのこと。
倉持曜子という名は偽名で、本名は高松芽衣(たかまつめい)という。
そんな芽衣に対し雄太は否定的。芽衣との会話で話が進んでいく。
言葉の弾丸が飛び交う
レンタル業に対しての両者の良い争いがすごい…。一部を引用して紹介します。
ウソついて相手を騙してるのと同じことだろ。結婚式に他人呼んだり、親に彼女っつって他人会わせたりしてさ。
そのときだけは逃げ切れるかもしれないけど、どうせその場しのぎだろ。
こちらは雄太の意見。納得できる。
その数時間さえしのげればどうにかなるってことが、世の中にはたっくさんあるの。
その場をしのいだ先に解決の糸口が見つかるかもしれないでしょ。
確かに…。芽衣の言う通りかもしれない。
以降も良い争いは続く…。
レンタル彼女として利用する
レンタル友達もレンタル家族もおかしいけど、レンタル彼女が一番気味悪い。生理的に理解できない。
こちらは雄太の発言。
こんなことを言いつつも、芽衣が帰ろうとするので一緒にいたい気持ちから、仕方なくレンタル彼女を依頼。
学生時代の先輩でもある上司に紹介するため、家へ。
先輩と、奥さん。雄太と芽衣の4人で食事。明るい設定の彼女は良いキャラを演じており、終始いい雰囲気だった。
途中、雄太はこんなことを思う。
また、この四人で、こんなふうに笑い合えたらどれだけ幸せだろうか
・・・・・
もし「レンタル世界」を読んだとき、上記の言葉を覚えておいてほしい。
数ページ後には、なんて虚しく哀れな言葉なんだろう…と思うから。
現実は非情だった。なんともいえないこの気持ちは、ぜひ本書を読んで体験してみてほしい。
終盤は「何者」を読んでいるかのよう
朝井リョウさんの著書で有名な「何者」。僕も読みましたが、終盤における女性陣からの言葉は迫力がありましたよね。
「レンタル世界」でも通じるところがあるのかなと。雄太は芽衣の言葉によってボコボコにされます。ネタバレを避けるため詳細は控えますが、雄太視点で読んでいたため、僕の心にもグサグサと刺さるものがありました…。
読み終えたときの虚無感といったらもう…。読み終えて数日経っていますが、僕の中でモヤモヤした気持ちが残っています…。
ままならないから私とあなた 感想
※ネタバレ注意
こちらは表題作。
無駄なことを切り捨て、効率化を図る薫(かおる)。
無駄なものにこそ、意味があると考える雪子(ゆきこ)。
この2人の小学生時代の話から始まり、大人になるまでを描いた作品。
「ままならない」とは、どんな意味か調べてみると「思いどおりにならない」とあった。まさしくその通りの感想を抱いた。本当に、この2人はままならない。
また、こちらも「レンタル世界」と同じく、終盤での言い合いが凄まじい…。読んでてハラハラした。
今まで言い争うことがなかった2人だったけど、自分じゃない誰かのことを理解したいと思う雪子は、こんなことを言っている。
ぶつかるしかないの、これからどうなるかわからないことに、ぶつかっていくしかないの。
この言葉を聞いて、薫と雪子は初めてぶつかり合うことができたのかなと思った。言い争った後のことは描かれないまま終わってしまったけど、以前よりも良い関係になったのではないかと思う。思いたい。
そういえば、作中で「Over」というバンドが出てくる。僕の中ではセカオワ(SEKAI NO OWARI)をイメージして読んでた。
プロジェクションマッピングや、歌詞の内容に合わせて色を変えるライトなどのライブ演出は、まさしくセカオワ特有のものかと。
おわりに
「レンタル世界」は約60ページの短編です。1時間もあれば読み終わる内容ですが、色々と考えさせられました。「ままならないから私とあなた」も同様。
個人的にはとっても好きな内容で面白かったけど、こんな気持ちになるなら、軽々しくおすすめしない方がいいかもしれない。
この本を読んでも、決してハッピーな気持ちになることはない。
それでもよければ、読んでみてはいかがでしょうか。